コロナ禍でも労働者は働かなくてはなりません。特に医療介護現場の皆さんは働くことが至上命題とされています。人員・設備・労働環境の改善充実が必要と言いつつも、ほぼ未着手のまま非常事態に突入してしまいました。そんな現場からの相談です。
【相談内容】
1.介護施設の総務事務として勤務。勤続7年超。正職員。 ハローワークの求人募集「事務職・総務」に応じて、採用された。 2.10月1日付人事異動で、「介護職業務に就いてもらう。助手からスタートし、 資格はおいおい取得するように」と通知された。 3.入職時から、介護職への勤務は想定していなくて、職場異動の話もなかった。 4.就業規則では異動に関して特に定めがない。 施設は人事異動に従うのは原則としている。 5.介護職に就かなくてはならないか。
【以下の様にアドバイスしました】
1.介護現場の人員不足は際立っていますが、それが背景にあるのでしょうか。 それにしても雇用契約上の職種が変更するというのは大変です。心中お察しします。 2.このケースの場合、雇用契約に(1)職種が限定されているかどうか、(2)職種限定の 有無を問わず配転の記載が就業規則にあったとして、その配転命令権行使に合理性が あるかどうかがポイントです。 3.「職種限定」が雇用契約や労働協約、就業規則等に記載されていれば、仮に職種変更 があるにしても労働者の同意が必要です。原則は変更不可ということです。 4.「配転命令権行使の合理性」の観点からは、使用者に配転命令権が認められる場合で も、権利の濫用となる場合はその配転は許されません。 判例でも、配転命令が「業務上の必要性がない場合又は業務上の必要性が存する場 合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものである とき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるも のであるとき」は、その配転命令は権利濫用・無効としています。 苛め・パワハラ等の一環としての配転はこの部類です。 5.本人の場合も、まず総務事務職についての職種限定の雇用契約であったかどうか、調 べてみましょう。雇用契約書をチェックし、可能であれば労働協約や就業規則、労働 慣行・経過で配転命令に応じた事例があるかどうかを確認することが大切。 6.注意しなくてはならないのは職種の限定がない場合で、就業規則等に「業務上の必要 により職種の変更を命ずることがある」という規定がある場合です。 この場合には、配転命令が権利濫用でないか確認することになります。 7.具体的には、施設側に総務事務職から介護職への配置換えを命じなければならない特 段の業務上の必要性があったかどうか、配置転換で本人がどのような不利益を被るの か、これの比較衡量をして判断することになります。 8.今回はご本人の場合、相談の限りでは合理性に欠け違法性も強いと感じます。 ご本人が現職勤務を主張するのであれば、施設との協議は必要。 労組対応としてはどうでしょうか。
人手不足の中、増える利用者さん、苦しむ利用者さんに何とか適宜なサービス提供を、と思う中で苦肉の策として出てきた発令でしょうか。しかし、合理性に欠けていては、元も子もないということです。現場環境を知りつつ、結果として放置してきた政治の責任は重い。