12月4日、日本労働弁護団は根本匠厚労相に厚労省が作成した働き方改革関連法案・高プロを説明するリーフレットに誤りがあるとし、撤回を申し入れました。このリーフレットは既に9月に公表されていて、高プロ制度の説明文に「働き方にあった健康確保のための新たな規制の枠組みを設ける」と記載されていますが、労働時間の対象外事項については一切記載されていません。12月5日の朝日新聞朝刊に報道され、CUNNでは「CUNNメール通信 N0.1504」でその詳細を配信しています。以下に添付しますのでご覧下さい。厚労省からのコメントは確認できていませんが、内容について公表前に労政審の関係委員の確認はしたのでしょうか。
2018年12月5日の朝日新聞朝刊記事です。
【2018年12月5日配信 CUNNメール通信 N0.1504 】
◎ CUNNメール通信 ◎ N0.1504 2018年12月5日
1. (情報)厚労省による高プロ説明文書、その杜撰な中身に労働弁護団らが撤回と
修正を要求
ハーバービジネスオンライン2018.12.05
HBO取材班
12月4日、法政大学キャリアデザイン学部教授の上西充子氏と日本労働弁護団が、
厚生労働省に対し、安倍政権が進める働き方改革に伴う厚生労働省のリーフレット
「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」(参照:厚労省)における高
度プロフェッショナル制度(高プロ)の説明内容の撤回を求める申し入れを行った。
「このリーフレットは9月7日に発表されて厚労省のサイトにも載っており、世間に流
布しているものです。しかし、その中で高プロの説明が完全に誤っていることがわか
りました。そのため、内容をまず撤回して、作り直せということを厚生労働大臣と厚
労省の担当者宛に申し入れを行いました。すでに労使交渉などで使われてしまってい
るリーフレットなので、これは非常にまずいなという問題意識から申し入れを行いま
した」(日本労働弁護団幹事長・棗一郎氏)
問題となった箇所は、このリーフレットのpdfにおける「別紙1」「労働時間法制の
見直しについて(労働基準法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法の改正)」の
中の7ページ以下の部分だ。
具体的な問題点を見ていこう。
◆具体的には何も決まってないのにリフレットだけ先行して作成・配布
第一の問題点は、省令・指針の制定を待たずにリーフレットが作成・配布されたこ
とだ。
高度プロフェッショナル制度は、対象業務や具体的年収要件など、重要な内容の多
くを省令で定めるとしている。にもかかわらず、省令・指針の制定を待たずにリーフ
レットが作成・配布されたのである。
なにしろ、高プロに関する省令・指針の内容の検討は、リーフレット配布後の10月
15日の第147回労働政策審議会労働条件分科会でようやく始まっており、12月4日現在
においても、まだ省令の内容も確定していないのである。
第二の問題点は、対象業務の記載が誤っている点だ。
すでに指摘したように、省令・指針の制定を待たずに作成・配布されたために、対
象業務の記載が誤っているという事態になってしまったのだ。
具体的には次の箇所だという。
同リーフレットの別紙1-p8には、対象業務の具体例として、「金融商品の開発業
務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究
開発業務など」と記載されている。
しかし、10月31日に行われた第148回労働政策審議会労働条件分科会に示された
「対象業務(素案)では、「金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、ア
ナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・
企画運営に関する高度な考察又は助言の業務)、研究開発業務」の5つのみであり、
「など」に相当するものは一切書かれていないのである。
また、これらの5業務もすべてが該当するわけではなく、それぞれについて対象に
なり得る業務とそうでない業務が検討されている段階だ。その内容は、11月14日開催
の第149回労働政策審議会労働条件分科会でも修正が加えられており、いまだ内容は
確定していないのだ。
そのような「何も決まっていない」状態にも関わらず、周知啓発のためのリーフ
レットに「金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、
コンサルタントの業務、研究開発業務など」と誤った記載を行ったことは、違法な形
での制度の乱用を誘発しかねず、重大な問題だという。
◆制度の本質を正しく伝えず 労働者を「引っ掛け」る内容
第三の問題点は、制度の本質を正しく伝えていない点だ。
高プロ制の本質は、「労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、
対象労働者については適用しない」(改正労基法41条の2)とあるように、労働基準
法の労働時間規制を適用除外することである。しかし、その本質的な規定が適切に説
明されていないのである。
このリーフレットでは、「新たな規制の枠組みを設ける」と、どうとでも取れるよ
うなことが書いてあるだけで、時間外や休日労働の規制や残業代などの割増賃金がな
くなることがわかりやすく示されていないのである。周知を目的に配布されるリーフ
レットであるにも関わらず、だ。
また、同リーフレットでは、盛んに「自由な働き方」を喧伝しているが、これも本
質とは異なるというのが第四の問題点だ。
法律の条文を見ても、どこにも時間配分の指定をしない旨も記載されていないし、
出退勤の時刻の自由も保証されていない。現在、労働政策審議会労働条件分科会で裁
量性を確保するための規定が検討されてはいるものの、その内容はまだ確定していな
いのが現状だ。
そして第五の問題点がQ&Aの悪質な回答だ。
同リーフレットには、Q&Aとして以下のようなやり取りが記載されている。
【Q】高度プロフェッショナル制度で、みんなが残業代ゼロになる?
【A】高度プロフェッショナル制度の対象は、高収入(年収1075万円以上を想定)の
高度専門職のみです。制度に入る際に、対象となる方の賃金が下がらないよう、法に
基づく指針に明記し、労使の委員会でしっかりチェックします。
まず、問いの立て方がおかしい。「みんなが残業代ゼロになる?」などいうことを
反対派は懸念しているわけではない。高プロの対象者が残業代ゼロになる、として反
対しているのだ。
なのに「みんなが残業代ゼロになる?」と誤った問いを立てて、「高度プロフェッ
ショナル制度の対象は、高収入(年収1075万円以上を想定)の高度専門職のみです」
と、懸念を払しょくした風を装おう。あまりに不誠実だ。もしこの問いに誠実に答え
るなら、
「みんなが残業代ゼロになるわけではありませんが、高収入(年収1075万円以上を想
定)の高度専門職の方については、高度プロフェッショナル制度の対象者となった場
合は、残業代は支払われなくなります」
と回答するのが筋であろう。
厚生労働省は新制度の内容を適切に周知する役割を負っているわけで、その厚生労
働省がこのような誤解を招く表現ばかりのリーフレットを、何も決まっていない段階
から作成・配布したのは大きな問題なのである。
このような問題点について、上西教授と日本労働弁護団は、具体的な修正案を提示
して、元の文書の撤回と修正した新リーフレットの作成を求めるという。
棗弁護士は会見でこう語った。
「実際の条文は、我々法律の専門家が見ても理解しにくい内容です。現場の労使は、
条文を見て交渉するのではなく、こうしたリーフレットを見て交渉するんです。これ
で交渉するんです。それなのに、”など”とか”自由な働き方”などと書いてあった
ら、労働者は誤解します。なので、直ちに撤回して、労政審で書き換えるとアナウン
スして頂きたい」
政治家の不誠実な「ご飯論法」で成立した高プロ制。厚労省にまでも「ご飯論法」
で不誠実な説明をすることを許してはならないだろう。
<文/HBO取材班>
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