地方最低賃金審議会に勇気ある苦言 ~エビデンスに基づく審議会形成と知る権利に対する誠実対応が必要~ 山口県の話です 

山口県地方最低賃金審議会公益委員を今年春に退任された松田弘子弁護士が在任中の体験から審議会改善の必要性を、連合通信のインタビューの中で訴えました。オールアウエイーの中でのご奮闘に拍手を送るのと同時に私共の活動の非力さを改めて反省しました。諦めずに意見を言い続けることの大切は痛感しました。連合通信のインタビューの内容は以下のとおりです。

◎ CUNNメール通信 ◎ N0.1578 2019年7月29日

1.(情報)インタビュー/エビデンスに基づく審議を(上)/
                            山口最賃審の前公益委員 松田弘子弁護士
                                          190727連合通信・隔日版

 最低賃金の改定審議の改善を訴えている前公益委員がいる。山口地方最低賃金審議
会で委員を今年春まで7年間務めた松田弘子弁護士だ。「改定審議は形骸化してい
る。エビデンス(根拠)に基づく審議が必要」と主張。審議が非公開とされている現
状についても「知る権利の侵害だ」と是正を訴える。

 ――任期を振り返っての感想は?
 松田 委員就任は、任期途中に辞められた前任の弁護士に頼まれて引き受けたのが
       きっかけ。審議に関わっているうちに最低賃金の大切さを実感した。
       でもその割に審議は形式的で、意見を言う人は煙たがられる。何も言わずに
       帰る人が好まれる席なのだということが分かった。
      どの回も労働局が作成したシナリオがあり、公益委員と事前の打ち合わせを
      していた。そこに書かれていた「異議なし」の記載通り、実際の審議でも「異
      議なし」との発声があり、事前に事細かに決めていたようである。
      最初はこれが最賃の改定審議なのかと大変驚いた。
     さらに驚いたのが、引き上げの根拠となる資料がないことだ。
     「生活保護を上回っている」というが、比較方法に関する説明はない。
      経済情勢など、立派な資料はたくさん用意されるが、最低限必要な生計費の指
     標が全くない。あるべき水準が議論されないまま、第2次安倍政権発足後の20
   14年以降は毎年目安通りに決まっている。こだわっていたのはせいぜい、
   同じCランクの岡山に追いつきたいということぐらい。
   それもかなわないでいるのだが。

 ――地方最賃審は必要?
   今のあり方だと地域別最低賃金については必要ないと思う。
   中賃がしっかり決めるか、全国一律にすればいい。特定最賃をどう扱うかによる。
   最賃が「労働者の生活の安定」「労働力の質的向上」の要請を満たすためには、
   非正規労働者などの実情を調査する必要がある。山口の実情をつかむために1
   年間かけて県内をくまなく回り、調査・研究を行ったり、健康で文化的な生活を
   送れる最低限の生計費を積算したりするならば話は別だ。
   厚生労働省と山口労働局がそういう作業をきちんと行うのであれば必要だろう。
   山口での最低生計費がどのぐらいの水準であるべきか、中小零細企業の状況は
   どうか、引き上げる時と引き上げた後、この二つの影響調査が必要だ。使用者
   側は「経営が厳しい」と根拠もなく相場観のような話ばかりしている。
   そんな審議ならば意味はない。
   昨年の審議では、最賃近くで働く人が多い県内かまぼこ製造工場への視察を労
   働局が提案した。だが、対象になった会社は、低賃金という印象を与えるのを
   嫌い拒んだという。そりゃそうでしょう。そんな付け焼き刃ではなく、国の責
   任で大規模な調査をするべきだと思う。
 
――委員の日当は?
   出席謝金という名目で、1回につき税込み1万7700円。
   形骸化したセレモニーのためにこれだけの支出が必要か、今となって考えると
   悩ましい。

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インタビュー/非公開は知る権利の侵害(下)/
                    山口最賃審の前公益委員 松田弘子弁護士

 ――改定審議が非公開にされています

 松田 山口地方最賃審は自由闊達な意見表明を保障するとの理由で審議を非公開に
    している。でもそれはおかしな話で、公開することによって発言が拡散し、
    発言に対する責任を問われるのが嫌ならば、委員の就任を辞退すべきだと思う。
    労使委員は選出された団体の利益代表者ではない。委員に就任した以上、
    公開の場であれ非公開であれ、労働者、使用者の全体の代表としての責任ある
    発言をすべきだ。非公開にすることが、最賃の影響をじかに受ける人たちの
   「知る権利」を著しく侵害している。審議の議事録を入手するために情報開示
    請求をしなければならない事態は異常だ。
    非公開にしても一言も発しない委員がいる。任期途中に転勤で山口を離れ、
    その後一度も出席しなかった人もいた。
    それならば、委員に立候補している非連合の労組に席を譲るべきだ。
    少なくともナショナルセンターの組織規模に応じて委員を配分するのが
    公正ではないか。
 
――山口県弁護士会が2017年に初めて最賃について声明を出しました
 
    声明では、最賃の影響を受ける非正規労働者や、生活困窮者の就労支援を行ってい
    る人、社会保障の専門家を委員に加えるべきだと訴えた。
    声明を山口労働局に手交した当日、公益委員だけの会合があった。
    会長声明に対し「社会学者ではだめなのか」など随分慌てていた感じだった。
    しかし結局、何も結論は出なかった。
    外から意見を言われることがないのでしょう。声明はインパクトがあった。
    地方議会での意見書採択も効果があると思う。
    最低賃金審議会や労働局にどんどん意見を言っていくべきだ。

●審議会の外で会議

 ――いつ頃から疑問を?
    15年に意見陳述を認めるかどうかについて議論した時、別の公益委員と私が
    条文で定められているのだからやるべきだと主張した。
    それに対し「意見書が出ているので必要ない」と後ろ向きの意見が出た。
    結局「他県もやっているから」という理由で初めて認められた。
    横並び意識の強さを感じた。
    特定最賃の審議でも理解に苦しむ運営があった。
    金額改定については3回で決めるのが、山口ルール。毎年初回は労働側が、
    2回は使用者側が主張し、そのあと審議会の外での会合をはさんで第3回で
    決める。私は「特定最賃の問題を審議会の外で話し合うのはおかしい。
    審議会内で話し合うべき」と訴えたが、「労使のイニシアチブで決めるから」
    と押し切られた。
    経営が厳しいので最賃を上げられないと主張する使用者側に対し、
    エビデンス(根拠)を示すよう求めると、その委員は「裁判ではないので
    立証責任はない」と述べていた。
    はなから立証を放棄する発言が認められている。改定審議が機能している
    とはいえない。
 
    絶対に闘わなければならないと思ったのが、
    気機械の特定最賃(当時815円)の見直しだった。
    軽作業を適用除外にし対象範囲を狭くする案件で、私が委員に就任する以
    前に公益側が「そういうことを労働側が言い出すのはおかしい」と反対し、
    沙汰止みになった、と聞いていた。
 
    それが17年に亡霊のように出てきた。しかもまた労働側からである。
    私は「適用除外業務の見直しにより賃金の切り下げなどの不利益を生じさ
    る申し出を行うのは、労働者代表委員としての職責を放棄しているとの
    誹(そし)りを免れない」「適用除外の見直しの必要性、許容性がない」
    として反対した。

    その時、審議会でも専門部会でもない「公労使意見交換会」なる非公式の
    会合が開かれた。これは全会一致の議決に至るよう努力するとの運用方針
    があることから、反対する私を説得するための会議。
    終了予定時刻も示されず、1人で14人を相手に闘う形となった。
    のすごい同調圧力だったが、主張を曲げず、対象範囲を狭めさせなかった。

 ――4月で任期満了で委員を退任されました
    公益委員の任期は1期2年で、本来10年は務めるものと聞いていたが、
    今年4月、任期7年で満了となった。異論を言う人間が目障りだったのだろう。
   委員の任期を終え、今後は公正な審議を行うよう訴えていきたい。
 

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