就業規則の不利益変更は労働契約法(2012年成立)の第8条、第9条及び第10条で危ういとはいえ要件が定められました。前提としては原則不利益変更は不可で、どうしてもという場合であっても労働者の合意が必要ということです。しかし、2012(平成24)年以前の就業規則の不利益変更について労働者が被害を受けているという相談が寄せられました。
【相談内容】
1.ホテル風の旅館従業員。正社員。本人等は昭和の時代からの勤務。
部屋付き係・担当さん、との呼称。
2.宿泊客の接客。部屋単位に対応し、チェックイン時→食事→就寝→朝食→チェックアウト
まで一通り対応する。
3.採用時定年年齢は60歳であったが平成18(2006)年に定年が63歳に
平成26(2014)年には65歳へと引き上がった。
4.会社就業規則に勤続手当・退職慰労金という規定がある。
5.勤続手当は以下のとおり。
(1)正社員の勤続2年目から5年目までは月額2千円、それ以降勤続1年毎に1千円が
加算される。
(2)上限は1万円とされているので、勤続13年目からは1万円となる。
(3)定年年齢を超えた者及び定年退職後の再雇用には支給しない。
6.退職慰労金は以下のとおり。
(1)正社員の退職者につき勤続3年満了者に2万円支給。9年満了まで1万円を加算し、
10年満了者は10万円。
(2)10年を超える者は1年に就き1万円を加算する。
(3)定年年齢を超えた者及び定年退職後の再雇用には支給しない。
7.会社は、平成28(2016)年60歳を超えた本人に対して、勤続手当をカットし
退職慰労金を支給するとした。ただし、就業規則に基づき65歳(2021(平成33)年)
までは正社員雇用とするとした。
8.本人等は、就業規則では勤続手当、退職慰労金は定年年齢まで継続する定めであると
主張した。
9.会社は、平成18(2006)年に定年年齢を63歳に改定したさい、
60歳以降の者には勤続手当は支給せず、退職慰労金は60歳で清算し
60歳以降は適用しないと、定めているとした。
10.本人等はそのような説明は受けていないし、改定したという就業規則そのものも
閲覧したことはないとした。
11.会社は本人の求めに応じられないとした。
本人等は納得できないが時も経過している。どのように対応すべきか。
【以下のとおりアドバイスしました】
1.労働条件の不利益変更。
2006年の改定時の状況がポイントだが現行就業規則が不開示状態にあることは違反。
2.2006年は労契法成立前なので、労働条件は労使対等で決定すること(労基法第2条)、
作成、変更にあたって従業員の意見を十分聞き(90条)、従業員に周知する(80条)
という手続きであった、この手続きが存在したか確認する必要がある。
当然会社は従業員代表に説明したという証拠書類を持っていることが要件。
3.手続きの不備と変更理由に合理性があるかどうかがポイント。
その上で本人等の主張を公序良俗違反に絞る方が良い。
4.2014年改定の際は労契法成立後であるが、変更内容が不利益ではないかどうか精査する
必要がある。
5.65歳定年の法制化は2013年4月であり、会社の対応は遅れている。
この点については就業規則改定時に説明する義務がある。
法律を下回る就業規則は法定内容まで引き上げられるので、その時点の不利益者が
いないかどうか、チェックし、本人等の議論に参加するよう呼び掛けてはどうか。
6.いずれにしても、個人レベルの話では成果は期待できない。労組対応を強く勧めます。
最近の労働相談に、「知らぬ間に就業規則が変更されていた」、ことについての不利益被害が寄せられています。労働契約法成立後の不利益変更には、手続き面や実際の不利益被害を被ることに合理性があるかどうか等を争点にすることで会社との話し合いが維持できますが、社内立場としてアウェイ感の強い状態ではとても就業規則の不利益変更に対抗できません。また、労働契約法成立前の不利益変更は時限爆弾みたいもので、突然不利益が降りかかるというダメージが出てきます。働くこと、生きることに1人で精を出すことが難しい時代です。労働組合へ参加し、個の力を結集して個を守りましょう。
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